植田春汀書作展 鑑賞8 「雀鳴くあしたの霜の白きうへに静かに落つる山茶花の花」(長塚節)
- harunokasoilibrary
- 7月12日
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長塚節の死の前年(1914年・大正3年)、節35歳時の短歌です。短歌集「鍼の如く」其一にあります。
まだ寒い初春の早朝、うっすらと積もった白い霜、ふっくらとふとった茶色の雀、と愛らしく哀しいその鳴き声、音もなく落ちる紅い花弁、映像が目に浮かぶようです。おそらく、節は印象を写生しただけではないでしょう。静かに、音もなく、美しく散ってゆく、自分の生と死に重ね合わせてこの歌を詠んだのでしょう。万葉集の歌風に倣った節の歌は、自然の本質を深くとらえ、生命に限りない愛情をそそいでいるようです。このような澄んだ自然観は、子規の影響よりも、彼の生まれ育った風土との結びつきから生まれてきたのだと思います。
春汀さんの書風は、やはり、加悦の自然と風土とから生まれてきたものだ、と想像されます。
澄んだ穏やかな線質は、誰もまねできるものではありません。一行目と七行目以外の行が、右寄せで統一されているのは、修練の結果でしょうが、その作為とは関係なく、その線に表れた心持ちは、自然に表れてきたものでしょう。このような、温かく、明るく澄んだ線は、そのような人にしか書けるものではありません。このような人のことを、意地の悪い人だ、とか言うやからは、よほど心の歪んだ愚か者でしょう。その人の現象をよく観察すれば、そこに自ずとその人の本質が現れているものです。
春汀さんは、私の手本を模したと言っていますが、それは、表面的なものであり、本質は春汀さんの中にちゃんと在ります。
それから、私を手本にするのは余り勧められません。手本は、万人が認めている古典のなかにあるのではないでしょうか。
私の手本は、入門のとっかかりに過ぎません。
以下に春汀さんの作品集から御自分のコメントを転載しておきます。
「手本誌「野のはな」第37号にある春野先生のお手本の散らし方を模して書いた作品です。」1996年制作 紙に墨
2020-02-20 12:01:10



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