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植田春汀書作展 鑑賞25 「正月は馬のひづめの音もよし 間近にものの本繰るもよし」(与謝野晶子)

  • harunokasoilibrary
  • 7月12日
  • 読了時間: 2分
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 与謝野晶子の第14歌集『舞ごろも』(1916年・大正5年)に掲載の歌「正月は 馬のひづめの音もよし 間近にものの本繰るもよし」が大色紙に書かれています。晶子37歳ころの歌です。『舞ごろも』の自序「『舞ごろも』の初めに」のなかで、「・・・生活の全的表現のために、わたくしの力一ぱいを出し居ることだけは手ごたへがあります。・・・わたくしの生活はわたくしの命の焔の舞です。・・・人生解放の公会に馳せ参じる一人の新しい踊り子でありたいと思って居ります。・・・」と晶子は、静かに、しかし情熱的に述べています。私は、因習と戦い、自己を最期まで貫いた晶子を、近代日本や現代女性というよりも、人間の誇りに思います。このような詩人が、春汀さんの故郷にゆかりの人というのも、人の繋がりの不思議を感じます。

 ここに書かれた歌は、明るく、穏やかで、静かなお正月の一日でしょうが、これが詠まれた頃の世界は、革命と戦争の激動期です。それとは関係なく、愛する人と、好きな書物と、穏やかな日常の光に包まれた、満ち足りた、平和なひと時のなか、明日への希望を詠んだものでしょう。春汀さんの作品は、この歌と同じように、明るく穏やかで、希望の光に満ちていますねぇ。

 この書は、2のリズムで構成されています。対角線上に置かれた2つの文字群、各群は4行、各行には2字連綿が繰り返されています。そのリズミカルな流麗な書き振り。アクセントのような、墨継ぎによる濃い墨が、等間隔で4つ書かれています。この2拍子が、明るい響きを奏でているのです。それから、漢字の横には仮名を構成する。「もよし」のような同字には変化をつけて、2つの文字群が合唱のように呼応し合っていますねぇ。

 与謝野晶子の歌の言葉と、春汀さんの、書を通じての春汀さんの言葉が、見事にクロスした、爽やかで、軽やかな作品ですねぇ。


御本人のコメントを転載しておきます。

「2014年(うま年)の書き初め作品です。」

2020-03-12 20:46:35

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