植田春汀書作展 鑑賞16 「てふてふが一匹 韃靼海峡を渡って行った」(安西冬衛の一行詩「春」)
- harunokasoilibrary
- 7月12日
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作者の安西冬衛(あんざいふゆえ)は、詩人です。この一行詩は、昭和2年(1927年)ころ詠まれたようです。
短い詩ですが、いろいろ想像力を搔きたてる詩です。
言葉の表記に興味深い問題があります。「てふてふ」は旧仮名遣いです。「ちょうちょう」と読みます。音声は「ちょうちょう」で表記は「てふてふ」です。「韃靼海峡」は「だったんかいきょう」と発音しますが、しかし、表記は「だったん海峡」ではありません。
この詩は、巧みな対比で作られています。蝶々と大海原の大小の対比、弱そうな一匹の虫と強力な海との強弱の対比、蝶々という、やさしい音声と韃靼という硬い音声の対比。仮名と漢字の対比は、表記だけの問題ではなく、音声と意味とが一体となって言葉を形作っているのです。
春汀さんの表現は、小さなてふてふが、海よりも大きく強く書かれています。大海原の韃靼海峡は、てふてふより小さく、やさしく書かれています。詩とは逆の表現になっていますねぇ。一匹の「一」も小さくても強く書かれています。後半の「渡って行った」は真直ぐ強く書かれています。この書き振りが、春汀さんの言葉です。これが、安西冬衛の伝えたかった内容かも知れませんねぇ。
春汀さん御自身のコメントを転載しておきましょう。
「この言葉が、たった一行からなる「春」という題名の詩であるということ。鳥ではなく、あのひらひらと飛ぶ蝶が、それもたった一匹で韃靼海峡を渡る…。「えっ?」「えっ?」という感じで、この一行詩を知った後ずっと頭から離れなくて、これは書くしかない、と作品が生まれました。この詩が何をいおうとしているのかは解かりませんが、何だかとても励まされます。」 2009年制作
2020-02-28 10:20:45



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