モノローグ16『カラヤンがクラシックを殺した』宮下誠著から 孤高の絶対音楽 指揮者オットー・クレンペラー
- harunokasoilibrary
- 5月31日
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更新日:6月6日


アンチ・モラリスト
・・・指揮者オットー・クレンペラーは・・・インタヴュに答えて、・・・「ブルーノ・ヴァルターはモラリストだ。素晴らしい。しかし私はモラリストではない。断じてモラリストではない、それがどうしたというのだ。」
あるいは、あるリハーサルの際 、ごく控えめに彼の「社会の窓」が開いていることを注意した女性奏者に対して、如何にも以外そうに、こう尋ねた。
そのこととベートーヴェンの音楽との間に一体どういう関係があるんだ尋ねたね?
・・・彼の友人アーノルド・メンデルスゾーン(作曲家ではない)が彼のフィルハーモニア・オーケストラを振った演奏に対して追従を述べながら、それでもなお、ある曲では古いヴォックス録音の方が勝れているのではないかと恐る恐る進言したところ、
そんなことがあるもんか、君が間違っていることを証明してやる、と言って、近くのレエコード屋に彼を連れてゆき、
クレンペラーの振ったベートーヴェンの『田園』をくれたまえ、
と言ったところ、あいにく彼の演奏はなく、売り子はフルトヴェングラー、カラヤン、ヴァルターなどのレコードを勧めた。業を煮やしたクレンペラーは、どうしてほかのものばかり持ってくるんだ、クレンペラーのものを持ってこい、と興奮して言い募った。これに狼狽した売り子が思わず「どういうことでしょう?」と尋ねたところ、
わからんのかね、わしがクレンペラーなんだ、クレンペラーなんだよ、
と応えたという。売り子が、この恐慌状態を緩和しようと機転を利かせたつもりで、「それではお連れ様はきっとベートーヴェン様でしょうね」と馬鹿なことを言ったものだから、クレンペラーの怒りは頂点に達した。そしてこう言ったという。
馬鹿者、わしの連れはメンデルスゾーンだ、正真正銘のメンデルスゾーンなのだ!・・・・・・・
彼の音楽は一聴、取り付く島がない。不愛想と言っても良いし、木で鼻を括ったような、と言っても同じことだ。聴衆への媚びもサービスも絶無だから、聴く方はそれなりのコンディションにその身を置かなければならない。・・・・・・だから疲れる。クレンペラーの音楽に適性を持たぬものはだからクレンペラーの音楽を退屈に感じてしまう。しかし、ひとたびこちらが耳を欹て、音の一つ一つを注意深く聴こうとすれば、そこには如何にも玄妙で神々しい音楽が立ち現れるのである。・・・・・・
2021-08-22 13:15:56



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