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馬鹿と偽りの令和

  • harunokasoilibrary
  • 6月29日
  • 読了時間: 7分

 私の中には、新元号が話題になるまで、中西進氏は、塵ほども存在していなかった。元号などいう化石のような言葉には、まったく興味がなかったが、いくつかのニュースで採り上げられていた彼の傲慢な言葉が、不快で耳障りだったので、少し調べてみることにした。


 「「新元号「令和」の考案者との見方が出ている中西進氏(89)が14日・・・(令和の考案者は)私ではないのですよ」と述べた。「(元号を)つくるのは神や天」とも語った。中西氏は・・・自ら元号に言及。「誰かが考えたとしても、粘土細工の粘土を出しただけ」と話し、考案者について明言を避けた。」(ザ・サンケイ・ニュース、2019年4月14日より)


 「・・・朝日新聞の取材に対し、複数の政府関係者が「令和」を考案したのは国文学者で、万葉集研究第一人者の中西進氏(89)だったことを認めた。」(朝日新聞デジタル、2019年4月20日より)


 「新元号「令和」の考案者とみられている中西進・・・は・・・「文芸春秋」で「典拠としては国書である万葉集が良いと考えた。令に勝る文字はないと中西という人は思っていた」と明かした。元号案作成に当たり、政府側から条件を提示されていたとも言及し、事実上考案者だと認めた。中西氏は、令は「麗しい」、和は「平和」と「大和」を表現していると説明。「令和は『麗しき平和をもつ日本』という意味だ。麗しく品格を持ち、価値をおのずから万国に認められる日本になってほしいとの願いが込められている」と解説した。」(「福井新聞オンライン」、5月10日)


 「・・・そこかしこで持て囃される「令和」。その考案者と目される国文学者・中西進氏はこの4月インタビューで「令」という漢字について問われ、「辞書を引くと、令とは善のことだと書いてあります。つまり、令の原義は善です」と言い、次のように答えていた。〈「品格のあること、尊敬を受けること。そういう意味での『よいこと』が令です。そして、令に一番近い日本語は何かといえば、『うるわしい』という言葉です」・・・〉(「朝日新聞」2019年4月20日付)」(デイリー新潮、6月1日より)


 中西氏の「令」の解釈は、間違いではないが、安倍氏に忖度してなのか、こじつけ、ねじまげ、でっち上げていると思われるので、いくつかの辞書の解説を引用しておく。


 「令」、音は、レイ、リョウ、レン。訓は、いいつけ、しめる、しむ、せしむ、よい。字形は、形声。意符の「卩」(跪く。跪伏する)と、音符の「亼」と。会意。意符の「亼」(覆いの下に集める)と、意符の「卩」(人間が跪く)とから成る。字音は、音符の「レイ」は、叫ぶ・大声で呼ぶ意。字音の「レイ」は、清らか・清く美しい(伶・玲)意からきている。字義は、①跪いた臣下に叫ぶ。跪伏した臣下に大声で命令する。引いて、いいつける。のり。また、おさ。②多くの人を集めて、神や君主のお告げや言渡し(宣告)を伝える。(『甲骨金文辞典』水上静夫著 雄山閣より)


 「令」、音は、レイ。意味は、①のり。おきて。法令。律令。②ふれぶみ。公文書の一。命令書。③おおせ。いいつけ。④いましめ。おしえ。⑤いいつける。命ずる。⑥おさ。長官。「県令」⑦よい(善)。りっぱな。すぐれた。「命名」⑧よくする。りっぱにする。⑨他人の親族の敬称。「令息」⑩文体の名。皇后・太子・諸侯などの命令。・・・ 字解、会意。亼(シュウ、集める意)と卩(セツ、君が臣に与えるしるしの玉)との合字。原義は、君命を受けた臣が号令を発して人を集め使う意で、転じて、命令の意に用いる。(『新漢和辞典・改訂版』諸橋徹次他・大修館書店より)




「令」の甲骨文字
「令」の甲骨文字

 「令」、訓は、みことのり、いいつける、よい、せしめる。字解、象形。礼冠を着け、跪いて神意を聞く人の形。上部は三角形に似た深い冠の形である。・・・『説文』九上に「號を發するなり。亼・卩に従う」と会意に解する。亼を集、卩を節とし、人を集めて五瑞の節を頒ち、その政令をを発する意とするものであるが、卜文・金文の形は、礼帽を着けて、謹み跪いて神意を聴く神官の形に作る。その神意は、神の命ずるところである。・・・


 「鈴」は神を降ろし、神を送るときの楽器である。神意に従うことから令善の義となり、令名・令聞のように用いる。また命令の意より官長の名や使役の義となり、のち敬称として令閨・令嗣のように用いる。(『字統』白川静・平凡社)


 「令」、古代東アジア諸国の、国家制度全般について定めた、法典。律令の律は刑法、令はそれ以外の法。(『日本国語大辞典』『大辞林・第三版』などより)

「令」、①命ずること。いいつけ。②おきて。のり。③長官④他人の家族などを尊敬していう語。(『広辞苑』より)


 これらの解説を見るかぎり、「令」には、よい(善)はあっても、「うるわしい」や「うつくしい」といった意味はないと思われる。


 「令和」の典拠として総理大臣は、『万葉集』巻五・822、「梅花歌三十二首」の序を挙げた。


 天平2年(730)正月13日、太宰府の長官だった大伴旅人(665~731)が園遊の宴を催し、その宴で、ゲストの役人たちが詠んだ短歌をまとめ、王羲之の「蘭亭序」を真似て、漢文の序文を付けた。その序文にある「于時初春令月、気淑風和」(折しも正月の佳い月であり、気候もすがすがしく風は穏やかだ)から二字を取り出し、造語して「令和」としたという。


 「蘭亭序」(353年)には、「永和九年。歳在癸丑。暮春之初。・・・天朗氣清。惠風和暢」という文がある。また、後漢の張衡(78~139)の「帰田賦」が『文選』(530年頃)に載っている。その中に「於是仲春令月、時和気清」(是に於いて、仲春の令月、時は和し、気は清くすむ)の句がある。これも参考にしたのかも知れない。


 張衡も王羲之も、中国の古典である『礼記』の「経解篇」や「月令篇」にみられる「令」「和」の言葉の影響を受けているとも思われる。また、張衡も王羲之も大伴旅人も、老荘の脱俗思想の影響を受けていたらしい。


 「帰田賦」は、「官途に見切りをつけ隠遁生活に入ることを述べた作品」(品田悦一氏)

旅人の梅花の宴も、「ろくでもない俗世に背を向ける機会として梅花の宴を企てたのでしょう。」「テキスト全体の底に権力者への敵愾心が潜められている。」(品田悦一氏)


 旅人も良く知っていた「蘭亭序」は、脱俗の思想だけでなく、王羲之の国際性や、時代を超えて人から人へ伝わるであろう文学への信頼を表現している。安倍政権は、「万葉集」を「国書」と言っているが、「万葉集」の時代には、国書などといった概念は存在していなかった。「国書」などと言い出したのは、明治国家のナショナリストたちからと思われる。


 安倍氏は、歯の浮いたような美辞麗句(心にもない嘘)を並べ立てていたが、「総理の談話に、『万葉集』には「天皇や皇族・貴族だけでなく、防人や農民まで、幅広い階層の人々が詠んだ歌」が収められているとの一節がありました。この見方はなるほど三十年前までは日本社会の通念でしたが、今こんなことを本気で信じている人は、少なくとも専門家のあいだには一人もおりません。」(品田悦一氏)と、いうことである。


 肩書や、経歴で、その人間の価値が決まるわけではないが、中西進氏の経歴を参考までに載せておこう。


 「奈良県立万葉文化館館長 京都市中央図書館館長 同右京中央図書館館長 田辺聖子文学館館長 堺市博物館名誉館長 奈良テレビ放送文化スタジオ・こころ大学学長 平城遷都1300年記念事業協会理事 NARA万葉世界賞・親鸞賞・読売あをによし賞・大阪文化賞・山片蟠桃賞各選考委員 高志の国文学館館長 国際日本文化研究センター教授、トロント大学客員教授、帝塚山学院大学教授、同国際理解研究所長、姫路文学館館長、大阪女子大学学長、帝塚山学院理事長と学院長、奈良県立万葉文化館館長、京都市立芸術大学学長、池坊短期大学学長、高志の国文学館初代館長・・・(ウィキペディアより)1964年第15回読売文学賞(『万葉集の比較文学的研究』) 1970年日本学士院賞(『万葉史の研究』) 1990年第3回和辻哲郎文化賞(『万葉と海彼』)1997年24回大佛次郎賞(『源氏物語と白楽天』) 2002年京都新聞文化賞2004年奈良テレビ放送文化賞 2004年文化功労者 2005年瑞宝重光章受章2010年「万葉みらい塾」で菊池寛賞受賞 2013年文化勲章・・・」「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」の賛同者の一人として名を連ねてもいる。


 新元号が、どのようにして決定されたかの経緯については、不透明で、何が本当なのか、はっきり分からない。


 多くのメディアでは、中西氏を反権力の大文学者のように賛美する連中もいるようだが、私には、体制にどっぷり浸かって、誰よりも利益を受けてきた、老獪な、嘘つき老人にしか見えない。

(2019年6月・会員つうしん第162号掲載)

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