陰陽転転２

　あれから何十年も経ったように感じるが、数年しか経っていないとは、時間や記憶とは不思議なものである。言葉もそうだ。「あれから」とはどれからか。これは脳の問題なのか？

　久しぶりに案内状の題字を書いた。書かせていただいたと言うべきか、書展の題字はぼくだけの問題ではない、仲間たちの評価にも関わってくる。結構今まで２～３０種以上書いてきたが、会の代表なんだから下手でも書かねばならないのだ。常に以前とは違う目新しい題字や看板を書いてきたが、それが手枷足枷になって全く新しくオリジナルな個性的な題字がいよいよ書けなくなってきた。この線は以前つかった、この点は誰誰の模倣だ、墨色も字形も依然と同じだ、以前からそんなに枚数を書くわけではないが、数枚で決められたものがいくら書いても決まらない。書くよりどう書くかを考えて書く前に何度も倒れそうになった。

　ぼくは行き詰待った時、アホーのカラスの様に口をあんぐりとあけて（これはぼくの想像）空をじっと凝視(みつ)めているときがある。白昼に神を視るように。灰色のやや薄い雲が空一面を覆っているようなときに丸い白い光が一つ二つと増えてくるのである。それが何とも嬉しくて幸せな気持ちになるのだ。幻覚かもしれない、夢かもしれないが・・おそらく夢なのだろう。ああ水が欲しい、のどが渇いた、これは現実か夢か、これも夢なのだろう。目の前の窓から見える空のように。雲が流れてゆく、右から左へ、左から右へ、右は西か、左は東か、右も左も、西も東も視点によってはどちらにもなるのだ。暗雲ばかりに見える空も大きな窓から見た部分に過ぎない。

　考えすぎてはだめだ、賢くなるぞ。賢くなったらアホーになるぞ。説明好きの若者になってしまうぞ。真実は説明できないものだ。と、また説明している。

　あー目が回るクルクルクルクル。洗濯物がよく乾いて良いなーと思っていたら死がやってくる「こんにちは！お元気ですか」「散歩しませんか」「歩くのが一番ですよ」「頭の良い人には」「私と一緒に歩きましょう、そしたら永遠に生きられますよ。へ、へ、へ、へ！」

　死を怖れ名誉を気にする人は戦争に勝つ大物だ！大物万歳！独裁者万歳！小心者万歳！皆同じ顔に見える蟻や雑草こそ個性的ではないか、集団こそ個性の塊だ。蟻やブヨやアブラムシは孤独で自由だ。彼らは生命の大きな王様？？？？

　こんな綺麗な題字見たことない。へへへへ、何と上品な笑いだろうか、オリジナリティを感じるねえ、個性的だねえ。新しいねえ、立派なもんだ！へへへへ！

　自然ほど醜いものはない。自然を手本にしてきたぼくは、殺し屋で、平和愛好家で、科学信仰の信者だ、カラスがか？殺せ！殺せ！

とカラスが泣くよ。愛とは殺すことだ、愛は残酷で優しい、平和の仮面をつけた戦争遂行者だ。ぼくは愛を愛する、え！吐き気がする、この二枚舌の嘘つき野郎め、長生きしろよ、嘘つき程立派な者はいない。

　時間がないぞ急げ急げ、考えるな！考えろ！逃げないと食われるぞ！優しい生命に。食われてやるか、愛の愛好者よ。それとも食ってやるか、それも良いだろう。欠伸が出る、眠いのだ。

　昔偉い坊さんがいていまも神か仏のように信仰されているが、このぼんさんほど醜く嘘つきで狡い奴はいない。大勢の人食い鬼どもに養われている寄生虫なのだが、頭の良い奴で、愛の化身で永遠の生命の持ち主なのだ。

　やはり、自然ほど美しいものはない。不透明な女の様に。真っ黒なクモのように、雲のように、真白な花のように雲のように・・・

　言葉は空しいが、言葉は存在の証だ、言葉が消えると存在も消える。愛、最愛の、天使、おやすみ、あなただけ、たったひとりの、などなど・・・・・・

（2022年6月　会員つうしん第180号掲載）