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良寛さんの書を読む

  • harunokasoilibrary
  • 5月27日
  • 読了時間: 4分

更新日:5月31日

 竹の柄の藍刷りの料紙を、手で、やさしく撫でてみる。

 母のように温かく寂しげな木版だなあ。

 粗末な筆だ。

 絵を避けて、絵に寄り添うように書き始めよう。

 遠くから母の声が聞こえるようだなあ。

 しずかに穂先をからげ落筆、ゆっくり右に運んで、大きく回転し縦線へ、紙を刻むように、ゆっくり進んで突き返し、速度を上げて右左右左(みぎひだりみぎひだり)、力をためて大きく回転、静かに着地。気持ちを込めて、ゆっくり彫るように力を入れて書き進め、ぐいぐいぐい。強く点を打ち込んで、弾んで高く舞い上がり、踊るように軽やかに、右左右左右、小さく回って縦線へ。力を抜いて、てえーんてん。少し墨をつけよう。小休止。

 一字一字、心を込めて丁寧に書くのだ。ゆっくりと、うねるように、力を一定にして、折り返す所で力をためて、しっかり彫り進む。細長く書いた後は横広に、筆を吊り上げ、速度を上げて、だんだん大きく、左右に振って、少し墨をつけよう。小休止。次に書く字の「の」「た」と考えながら墨をつける。

 小さくゆっくり書き始める。しずかに入筆、ゆっくり回転し、少し速度をあげて、左右にゆれて真下に伸ばし、急いで墨を足し、順筆でしずかに入筆、左右の幅をとって、大きくどっしりと形を決める。行頭に戻りゆっくり、どっしり構えて、力をためて、一気につづけて、右左右、大きく回転、一気に下って、左右、小さくステップを踏んで左に払い、大きく宙を回ってしずかに下り、右左右、速度をあげて、左右に大きく、鋭く紙を切り、左に払って天空へ。小休止。

 墨をつけ、小さく、しずかに書き始める。力をためながら、だんだん大きく筆が上下左右に舞い上がる。「つ」の一筆目は落ち着いて打ち込んで、なだらかに、小さく、軽く、肩を張らずに、右下がりに、強弱をつけながら、やや単調に書き進む。「き」の最後、縦に伸ばして墨つぎへ。小休止。

 小さく緩やかに書き始め、一気に速度をあげて、大きく、強く、彫るように書き進み、突然終わる。少し墨を足し、じっくり、ゆっくり、書き始め、左右の振りをひかえめに、だんだん小さく書き進め、母の声のする天空へ、余韻を残して消えてゆく。

 漢詩と和歌が響き合わなければならない。

和歌の曲線的な草仮名と対照的に、直線的な、楷書っぽい字体で書いてみよう。

点画を離して書けば、少しは柔らかさが出るだろう。

堅苦しい感じがしなくて、私の心の中のものにピッタリだ。

 細筆にたっぷりと墨を含ませ、しずかに、ゆっくり入筆する。

彫るように力を込めて、ゆっくりと書き進む。

筆を立て、穂先をきかせて、穂先に力を集中させて、力は一定にして、筆を吊り上げ、細く大きく書いてゆく。

調子を変えて、筆を上下して、点を書くように、リズミカルに、弾むように書き進む。

また調子を変えて、筆を立て、穂先に力を集中させて、長い線を書く。

また調子を変えて、点を書くようにリズミカルに「餘」を書き、小休止。

 墨をたっぷりつけて、ゆっくり、しずかに入筆する。

ゆっくり、じっくり、彫るように、横縦点々(よこたててんてん)と書き進む。さらにゆっくり左右の払いを彫るように書いて、筆を吊り上げ、穂先をきかせて、強弱の変化をおさえて、線と点を坦々と書きつづける。少しだけ墨をつけて、筆に力を取り戻し、少し速度をつけて、勢いよく横線を書き、紙の奥に向かって点を書き、墨つぎへ。小休止。

 墨をたっぷり含ませて、彫るように、深く点を書き、ゆっくりと力を込めて横線を書き、旁を離して、ゆったりと構えさせる。

 筆をからげて起筆して、力を込めて送筆し、点画を離して間を取って、右払いはゆるゆると、中鋒の縦線で深く彫り、力を抜いて書き進む。

 筆を立て、吊り上げて、同じ力で書き進む。払いは幽かにふるわせて、〃の字は軽やかに、少し墨を含ませて、小休止。

 順筆で踊るリズムで書き進み、最後の「央」は堂々と、行の真ん中に立っている。最終画の払いは余韻を残して天空へ。

 一本一本、ゆっくりと、悠々と、線を書き、線を離して、余韻をつくり、力を込めながら力を抜いて、軽やかに書きつつ力に満ちて、細くても豊かさがあふれている。縦線も横線も幽かに揺れながら、力強く柔らかな線や点が創造されてゆく。この何とも言いあらわすことの出来ない良寛さんの書は、限りない謎である。良寛さんが、日本人のなかの日本人といわれる所以は、何処にあるのだろうか。良寛さんの書は、この上なく美しい絵画か音楽に出会ったときと同じ歓びを私に与える。

良寛書「和歌と漢詩」をやまだの・・・・・・
寛書「和歌と漢詩」をやまだの・・・・・

(2014年10月・会員つうしん第134号掲載)

 

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