習っていない時が最も大事な時間
- harunokasoilibrary
- 2月17日
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更新日:6月1日
さて、字を習おうと身構えて筆をとり、手本を見て書いているうちは、それなりに字らしい字が書けるのだが、何かの必要で、いきなり手本なしで字を書くと、まったく様にならない。書を何年か習った人でもこう感じる人がほとんどのようだ。本当の実力とは、いきなり書いて、それなりに美しい字が書ける力のことといえるだろう。本当の実力とは、なかなか身につかないものである。
時間というものは、限りのあるものである。忙しい生活の中でやっとみつけた自分だけの時間を、習字のために大切に使おうと、身構えて字を習うのである。意志の強いまじめな人は、毎日少しずつ、こつこつと、その大切な時を積み上げていけるだろうが、凡人は、何やかやと理由をつけてなまけてしまう。何年も習っていてもこれでは本当の力はなかなか身につかない。
書というものは、身構えて習っているうちは、なかなか身につかないものである。日常生活の中に溶け込むように学ばないといけない。手本を見て習っているときだけでなく、日常的にことあるごとに文字のことを考え、文字を大切にして、文字をないがしろにしないことである。一日のうちの数分の積み重ねはとるにたらないようでも、一年にすると思いもつかないようなぼう大な量になる。馬鹿にしてはいけない。手本を見たり、先生について習っていない時が、実力をつけるために最も大事な時間なのである。どんなに忙しい時でも、少しでも美しい字を書こうと努力する心持ちが、年を重ねるごとに、本当の書の実力を、知らず知らず自然に身につけるのである。
(1997年9月 会員つうしん第29号掲載)


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