美しい文字は美しい姿勢から
- harunokasoilibrary
- 2月23日
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更新日:6月1日
姿勢は、初歩のうちだけでなく、書をかくかぎりいつまでも忘れてはならない、最も大切な基本です。とくに習い始めのうちは、字を書くことよりも大切なことといっても過言ではありません。字を書くよりも、紙の前に座り、墨を磨り、筆をもって書き始める前までの姿勢を正しくすることに時間を使った方がよいくらいだと思います。書は、姿勢を書くのだといってもよいくらいです。
美しい文字は、美しい姿勢からしか生まれません。いくら書いてもうまくいかないときは、ひと呼吸おいて、姿勢を正してから、書き直すとうまくいくときが多いものです。
姿勢といえば、ただ正座することだ、くらいに思ってはいけません。ある人にいわせると、教育とは姿勢を教えるだけで充分だとまでいいきっているくらいです。それは少しいいすぎだとしても本質的には、私もそう思います。目の前にある紙に対してどうたち向かうか、それが姿勢です。紙を人生、また世界、仕事、学問などの言葉に置き換えてみればよく解ると思います。人生にどう向かうか、世界にどうたち向かうのか、仕事にどう向かうのか、こうなってくると紙というものは単なる紙ではなく、人生や世界の比喩としてのっぴきならない事になります。紙の前に座って全身全力でたち向かっていかなければとても美しい文字など書けるはずもありません。おのずと姿勢は正されるものです。このたち向かい方が姿勢であるともいえます。実際に筆をおろして書く以前の思いや生き方が姿勢に表れますから、姿勢がその書を決定するということがおわかりでしょう。背筋をのばして紙に真っすぐ向かうのが基本ですが、どこかの政治家や宗教家のように表面だけ正しい姿勢をよそおって、まじめなポーズをとることなんかではもちろんありません。誰も見ていない、自分の心だけが見ている、自分に恥ずかしくない姿勢を常に正しながら紙に向かっていくのがよいと思うのです。
(1998年7月・会員つうしん第34号掲載)


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