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第10回野のはな書展(2004年4月28日~5月2日)

  • harunokasoilibrary
  • 3月27日
  • 読了時間: 4分

更新日:6月1日

ごあいさつ

 


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発表の基調は「平和と希望」。

 

平和と希望への、想いや感じ方は、

ひとりひとり顔がちがうように、多様であると思います。

私たちは、自分だけの喜びや悲しみや怒りをうたいたいと思います。

 

そして、一人一人のうたを、書の糸でつなぎます。

このつながりは、私たちだけでなく、

水の輪のように、世界に開かれています。

(目録掲載文)

              



第十回 野のはな書展感想

 

 何気なく、テレヴィをつけましたら、一面ピンク色の、広大な風景が眼に入りました。それは、ゴッホの絵にあるような、花盛りの果樹園でした。私は、ゴッホの絵を想い出しながら、うっとりとして、しばらくそのテレヴィの中の景色に見とれていました。優しく温かい人の心に出会ったときにも似た、生を励まし命の炎を静かに燃え立たせるような、言葉では言い難い豊かな歓びで、その桃の花たちは、私を包んでくれました。

 果樹園は自然ではありませんが、自然と同じように人間を慰める力があります。なぜそのような力があるのか、本当のところは私には解りませんけれど、おそらく、人間が、火(日光)と水と土と大気(風)という自然に、最も近く関わる労働の一つが果樹づくりだからでしょう。

 

 私は、良いやきものを見ていると楽しくなるのですが、これも、ただ、その色や形や肌触りが心地よいというだけでなく、その悦びの感覚の根本に、地(土)水火風と深く関わる労働の存在を感じます。どろどろの土を捏ねていますと官能的な悦びを感じますし、成形した土を乾燥しているときには、土に優しくからまりながら撫でて通り過ぎる微かな風を感じたりします。窯の炎は土だけでなく人間の心までも焼き尽くし新しい生命を創造するようにも感じたりします。 

 今回、硯を作る機会がありまして、ノミで石を加工しました。きつい作業でしたけれど、自分の肉体を造形し直しているような、心をはつって作り直しているような快感がありました。これもまた、何億年の時をかけて火と水と土と風が創り出した石に深く関わる労働だから感じることの出来る悦びなのかとも思います。

 書の仕事は、深く自然と関わる仕事です。自然の奥深くから流れてきた水が、人間の體を通じ、道具を仲立ちにして、紙のうちに形づくったものが書だと私は思っています。紙も墨も硯も筆も自然が姿を変えた物です。やはり、書の悦びの根本にも地水火風と深く関わる人間の労働が在るのです。このように考えて参りますと、人間の悦びは、自然との融合の度合いによってその深浅が決まるのではないかと思えてきます。

 作品の良し悪しは客観的なものではなく、個個の鑑賞者と作品との間に成立するものではありますけれど、どんな出鱈目な作品でも好きな人がいればそれで良いではないかといったようないい加減なものだとは、私は思いません。今、私は、適切な言葉を想いつきませんが、作品の良し悪しは、人間を越えた何ものかによって決められているように感じたりもします。そしてその基準は、制作者と自然との関わり方の深度によるのが大きいのではないかと思います。

 

 果樹を育ててきた女性が、テレヴィの中で、見渡すかぎり咲く桃の花を、恍惚とした眼差しで見つめながら、ひとりごちました。「このために一年頑張ってきたのです」。「この花を、この一面の花盛りを見るために草を刈り、施肥をし、枝を整え、四季を通じて樹を守り育ててきたのです」と。

 私はこの言葉を聞いて、はっと、気づきました。野のはな書展は花盛りの果樹園と同じなのだ。この人は桃の実を得るために樹を育ててきたのではなかったのだ。作られた書も絵も陶も硯も果樹園の花なのだ。書展に来る人びとは一面ピンクの花が咲き乱れる桃源郷にきて、励まされ、慰められ、優しく強い心になって帰っていくのだ。そして、果実は花が散ったあとに人びとの心の中に実るのだ。と。

 

 出品者のみなさんが、一本の樹か草のように、来年また花が咲くように一年かけてご自分を育てていかれることを願っています。けっして枯れてはなりません。

 

 

蛇足

 学習会でも申しましたけれど、もう一度申します。多くの人はまだ気付いていませんけれど、私たちは素晴らしいものに出会っているのです。それは、線です。書の本質は、心(精神)の造形です。その根本に線が在ります。さらに線は書画の根本であるだけでなく、日本文化、東洋文化の根本に在るものです。さらに申しますと、人類の、そして宇宙の根本に、武満徹さんの「音の河」と同じ「線の河」が流れているように私は感じています。東西南北をつなぐ線、敵対するもの、相反するものをつなぐ線がきっと在るはずです。私たちは、一本の線を鍛えなければなりません。それが世界に真の平和と希望を実現する日まで。線は無限です。

 

 

 今日まで十回、私と行動を共にしてくださった方々に心より感謝致します。その気持ちは、感謝という言葉などではとても言い表すことが出来ないほどです。ありがとうございました。

 (2004年5月・会員つうしん第72号掲載)

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