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個展(「沈黙との対話」展)の感想

  • harunokasoilibrary
  • 2月28日
  • 読了時間: 4分

更新日:6月1日

 予想外の多くの人びとが私の個展を観に来られたことは、私にとってこの上無い喜びでした。一つ一つの作品また個展全体(空間)が、個々の人びとにどのように受容されたのか、またされなかったのかは正確に分からないけれど、私には観賞者のかなりの方が、驚き、あるいは感動されていたように見受けられたのでした。毎日何人かの見知らぬ方と、お茶を飲みながら、ゆっくり対話できたことも、疲れはしたけれども楽しい一時でした。対話したほとんどの人の目が、何か歓びと驚きでキラキラ輝いていたことが、疲れた私の心身に、長く暗い冬の後の太陽のように一入(ひとしお)暖かく染み入り、人間への信頼を再び取り戻せたような気持にもなりました。


 多くの人が、何か、拠り所や縋(すが)るものを探してさ迷っているようにも私には感じら

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れました。それは外国人も日本人も、老いも若きもさほどちがわないように想えるのでした。私の個展が媒介になって幾人かの人が、その人の探しているものを発見し、また確信を持って自己の仕事や生活を生き抜こうとする勇気のようなものを与えられたようにも想えて、個展をした意義を深く感じるのでした。

 

 人間が生きていく上で大切なこととは何でしょうか。それはもちろん水や空気や食物であることは言うまでもありません。人間が人間らしく生きつづけるためには、何が最も大切なことか、と言いかえたほうがよいでしょうか。それは、自分と同じように考え感じている人がたとえ一人でもこの地球にいる、私はひとりぼっちではない、悲しみも喜びも共有できる人がたとえ一人でもいるという人間への信頼ではないかと私は思うのです。私(私だけでなく、表具師さんや紙漉きさんやギャラリーなど全ての協同者)の作品を支持してくれた少数の人びとを支えに私は次の目標に向かって生きていけます。

 

 私は極めて厳しい物身両面の悪条件と精神的孤独の裡に制作を始めました。しかし制作の過程で、私の信じるものや人のことを強く思い感じたのでした。これは幻想だったかもしれませんけれど、私はとにかく私の信じるものに支えられるようにして書き上げました。祈るように書き上げたのでした。制作というものは、作家の孤独な戦いのようにも想えますが、本当は多くの心ある人びととのコラボレーションなのだと強く感じます。私一人が英雄のように戦っているのではないのだ。紙や墨や自然の多くのもの、またそれを作ってくれた人びと協同する人間らしい営為(いとなみ)が創作なのだと、私は思います。

 

 それから、他分野のアーティスト達が数多く来場されて、その多くの方がなんらかの刺激を受け、驚き、また励まされもしたということに私は驚くと同時に発表したことの意義を深く感じたのでした。彼等が書とは異なる分野で、人間らしい美しい仕事をすることに私の作品が多少なりとも役立つということは素晴らしいことだと思います。私の作品からパワーを受け取り、人間らしい生命を燃えたたせている彼等の目には、人間に対する信頼と、誠実な仕事をつづけていこうとする勇気が輝いているように私には感じられました。そして少数でも予想外の多くの人びとと、自然について、また人間についての私の思いや願いを共有できたように感じられたことは、私にとってこの上ない歓びです。作品を発表することの意味と喜びを今しみじみとかみ締めています。

 しかしどんな事でもいいことばかりではありません。黒と思っていたものが白だったり、白と思っていたものが実は黒だったという、私の思い違いがはっきりしなくてもよいのに否応無しにはっきりしてしまったりで、寂しいというか、悲しいことも、また嬉しいことと同じくらいあったのでした。

 

 これから先私は、私を支持してくれた少数の人びとの暖かい光に包まれて、私に与えられた仕事を続けていこうと思います。もしかしたら私も、未来についてもっとオプティミストになれるかもしれないという希望を、予想外の愛すべき人びとから受け取ったように今感じています。ありがとうございました。

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