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中国への旅の前に

  • harunokasoilibrary
  • 5月17日
  • 読了時間: 3分

更新日:5月31日

 中国での、反日デモは、治まったように見えるが、日本のマスコミは、あいも変らず、中国人への嫌悪感をまき散らかし、中国人民の、ほとんどが、日本人を憎んでいるかのような映像を流しつづけている。日系の商店や、日本車を破壊している中国人の暴徒の映像を見ていると、私も、中国人に対する不信感と、何とも言えない苛立ちを感じてしまう。

 しかし、冷静に考えなければならない。今回の、反日デモの参加者総数は、中国の全人口の約0.007%に過ぎないし、本当かどうかは定かではないが、中国では、1日に、500回のデモや暴動が自然発生し、年間、約17万回の暴動が起こっているという情報もある。

 領土の問題は、国家の宿命なのかもしれないが、私のように日本に国籍を持ち、日本国民でありながら、愛国心とは無縁で、国民としての自覚もなく、天上桟敷から、人間たちの争いを、面白おかしく、観劇している者にとって、誰のものでもない地球に、ありもしない線を引いて、真顔で威嚇している、政治家たちの、間抜けづらが、滑稽でもある。

洛陽・龍門石窟
洛陽・龍門石窟

 とは言うものの、人類が、まだヒトでしかなかった頃から、他の生物たちと同様に、自分や一族が生きのびるために、縄張りを決め、それを守るために、争ってきたのは事実であろう。ヒトの歴史は、生きつづけるための、争いの歴史である。現代の領土問題も、何万年も以前からの、人類の習慣に過ぎないのではないか、と私は思う。だからといって、争いを肯定しているわけではない。それどころか、現代は、連綿とつづけられてきた、一切の暴力を、私たちの地球上から、一掃する事が、人間の大きな課題の一つとして、はっきりと俎上に載せられている時代である。

 しかし、平和と自由のため、平等と人権のため、かけがえのない地球と生命(いのち)を守るため、などといった目的を持って、書の歴史や、中国や日本の歴史を学ぼうとは、私は思わない。あるがままの人間の行ないを、何の利害関係もない位置から、一人の人間として、自分の眼と心で、冷徹に観察したいと考えている。

 歴史を見るとき、大事なことが二つある、と宮崎市定が述べている。それは、「距離」と「時間」である。どのような距離から出来事を見るか、その距離によって、見え方の歪みが違ってくる、また、時間がたつことで、生(なま)の出来事から、よけいなものが取り除かれて、大事な本質だけが見えてくる、と。

西安・大雁塔
西安・大雁塔

 多くの人間が、ある組織の一人として、国民として、また、社会人として、健全なる家庭人として、など、何らかの利害関係の中でしか、発言できず、本当の世界から、眼と心をそらして生きるしかないのかもしれないが、それでは、永久に、平和は実現できないだろうし、本当の世界も感じることはできないであろう。

 古い歴史を学んでも、それは、病気を治したり、お金を儲けたり、すぐに生活に役立つようなものではないだろうが、歴史をどう見るかが、その人の人生観を決定するのだ、という真実を、人は考えて見なければならないと思う。間違った、また、いつのまにか、思い込んでいる、根拠の薄弱な歴史観が、世界から争いがなくならない、大きな原因の一つになっているように、私には思われる。書の歴史を、正確に学ぶことで、世界や中国や日本に対する偏見から解放されて、人間や平和について、本当に深く理解し、現在を、どのように創(つく)っていけばいいのかが、はっきりと、見えてくるのではないだろうか。


 私は、短い期間ではあるが、中国へ旅をして、自分の眼と心で、中国の人びとの、あるがままの姿と、その悠久の歴史と自然を、少しでも感じてこようと思う。一抹の不安はあるが、日本と中国の、マスコミや政治家の、ナショナリズムの扇動ごときに、去年、私が、享(う)けて感じた、思いやりのある、心豊かな中国人への信頼は、微塵もゆらいだりはしない。

(2012年10月・会員つうしん第122号掲載) 

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