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下手も芸のうち

  • harunokasoilibrary
  • 2月23日
  • 読了時間: 2分

更新日:6月1日

 「上手な作品ですね」なんて言われると喜ぶ人もいるだろうけれど、僕は、上手に書こうなんて思ったことは一度もない、というのは嘘で、一度は思ったことがある。少年の頃、まわりのおとな達が、書かれた文字を批評する言葉は、だいたい上手下手ということだけであったから、僕は、いつのまにか、どうしようもない下手な字しか書けない出来の悪いこどもだと固定観念を持ってしまった。下手という烙印を押されてしまった少年は、上手になろうと思うこともなく、書というものは劣等感を植えつけるだけのつまらないものだと思い込み、文字からできうるかぎり離れることになってしまった。

 本当は、ほとんどの人が上手な文字よりも良い字を書きたいと思い、良い書を見たときに上手な書を見たときよりもほっとし、何かしら豊かな気持ちになるのではないだろうか。良い書は知識や技術だけで作れるものではない。もちろん知識や技術は大切なものだけれど、もっと大切にしなければいけないのは、正直に自分をさらけだす素直さである。いくら上手な作品でも真心のないものには、誰も心を動かすはずがない。下手は下手なりに正直に自分の真心をさらけだして作品を作ることこそ芸術の原点である。下手も芸のうちなのである。

 (1998年3月・会員つうしん第32号掲載)

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